寂しい・・・・・・!
今、部のレギュラー陣は、U-17の合宿に行っている。
・・・・・・うん、そりゃあ、すごいことだと思う。
マネージャーとして、部員の名誉を誇りに思う。
さらには、跡部先輩と日吉に、「部は任せた」と言ってもらえた。
そして、今のところ声のかかっていない、滝先輩達だっている。
寂しいなんて言ったら、大変失礼なことだ。
だけど・・・・・・。
部活でも、教室でも、毎日見ていた日吉の姿が無いのは、やっぱり寂しい。
一応、私は彼女だし、日吉に「寂しい」って言える立場ではあるけれど。
そんなことを言ったところで、どうしようもないし、頑張ってる日吉の邪魔はしたくない。
じゃあ、いっそのこと・・・・・・。
というわけで、やって来てしまった、合宿所!
でも・・・・・・この先、どうするか。
入口の門は固く閉ざされ、監視カメラもついている。
一目見れたらいいんだけど、外からじゃ中の様子はわかりそうにない。
それでも、どこか見える所は無いか、と辺りを見渡しながら歩いていると、合宿所を囲うフェンスの一部が破れているのを発見した。
これは・・・・・・いや、でも・・・・・・。
破れて出来たフェンスの穴は、ちょうど人一人が入れそうな大きさだ。
まるで、出入りするために作られたかのように。
わかってる。そんなことはないし、勝手に入っちゃマズイ。
でも、せっかく来たんだし・・・・・・。
大丈夫。ちょっと見て、すぐ帰るから・・・・・・。
「し、失礼しま〜す・・・・・・。」
意を決し、そう呟きながら、こっそりと敷地内に入る。
そこは、木々が生い茂っていて、少し暗く感じるくらいだった。
・・・・・・迷子にはならないよう、気を付けよう。
ゆっくりと奥に進んでいくと、微かにテニスボールの音が聞こえてきた。
その音を頼りに、先へ進む。
でも、途中でテニスボール以外の音が耳に入ってきた。しかも、こっちの方が近い。
立ち止まり、注意深く聞くと、複数人の足音と話し声だとわかった。
この辺りでトレーニングしている選手がいるのかもしれない。
バレないよう、ゆっくりと近づき、木の影から覗き見る。
「あっ・・・・・・!!」
しまった!!思わず、声が・・・・・・!!
慌てて木に隠れ、なるべく目立たないように、と座り込む。
どうしよう・・・・・・。怒られるかな・・・・・・。
でも、仕方ない。だって、日吉が見えたんだもん・・・・・・!!
それに、日吉は普段見る氷帝の物ではなく、黒っぽいジャージを着ていた。
おそらく、U-17のユニフォームなんだろう。
後ろ姿が一瞬見えたぐらいだったのに、それでも格好良いと思えるほど、とても日吉に似合っていた。
うん、一目見れたし。早く帰ろう!
誰にもバレてませんように・・・・・・!
その場でじっとして、声が遠ざかるのを聞いていた。
それと同時に、一つの足音が近づくのも・・・・・・。
どうしよう、どうしよう!?
「・・・・・・?」
「・・・・・・ひ、よし?」
見上げれば、そこには黒いジャージ姿の日吉がいた。
やっぱりよく似合っていて、とても格好良い。こうして正面から見ると、さらに格好良い。
だけど、近くで見ると、顔のところどころに小さな傷があるのもわかった。
「どうしたの?!」
「それはこっちの台詞だ。なんで、お前がここにいる?」
「え、あ、いや・・・・・・ごめんなさい。」
咄嗟に日吉への心配が勝ったけど、日吉の傷は小さなものばかり。
心配じゃないことはないけれど、それよりも、私の今の状況の方が、よっぽど気にすべき事柄だ。
「全く・・・・・・。なんで、こんな所にいるんだ?」
「えっと、その・・・・・・日吉のことを一目見たいなーと思って、合宿所の周りを歩いてたら、フェンスの一部が破れてて。悪いことだと思いつつ、日吉見たさに入ってしまいました。ごめんなさいっ。」
頭を下げ、一層縮こまる。
上からため息が聞こえ、さらに肩身の狭い思いがしたけれど、恐る恐る顔を上げた。
すると、日吉は呆れた表情ながらも、手を差し出してくれていた。
「はぁ・・・・・・。言いたいことはいろいろとあるが、俺も早く戻らねえと怪しまれるからな。」
「あ、うん。ありがとう。」
日吉の手を取り、立ち上がる。
スカートの裾を軽く払い、歩いてきた方を確認した。
うん、迷わず帰れそう。
でも、本音を言えば、日吉とすぐ別れるのは少し寂しい。
一目見るだけだと言っていたくせに。
せめて、もう少しだけでも・・・・・・と最後に日吉の目を見る。
「言っておくが、/だからと言って、 許したわけじゃないからな?/これで逃げられた(逃れられた)と思うなよ?
↑ここは拘りたいですなー(笑 ↓今のところ
「これで逃れられたと思うなよ?」
「え・・・・・・?」
「夜に連絡する。」
日吉は後でたっぷり説教する、という意味で言ったんだろう。
でも、きっと、私の気持ちもわかって、そう言ってくれたんだ。
「ありがとう!」
「別に・・・・・・。気を付けて帰れよ。」
「うん!日吉も無茶だけはしないようにね。」
「ああ。」
日吉が踵を返し、私も帰路につく。
名残惜しいけれど、運良く日吉には会えたんだし。それに、連絡もするって言ってもらえた。
機嫌良くご飯やお風呂を済ませて、部屋で待っていると、携帯が短く鳴った。
さっき、意地悪っぽく言ってたくせに、「遅くなったが、これからでも大丈夫か」ってメールだった。
やっぱり優しいなぁ、日吉は!
「私は大丈夫だから、日吉の合のいい時間にどうぞ」と返しておいたら、しばらくして電話の着信音が流れた。
「もしもし?」
『悪い、遅くなった。』
「ううん、練習お疲れ様。その合間に電話してくれて、本当ありがとう。」
『いや、今まで何も連絡しなくて悪かった。』
さらには、そんなことまで言ってくれるなんて・・・・・・!
「ううん!全然!日吉が忙しいってわかってるから。」
『けど、何も無かったから、お前は合宿所まで来たんだろう?』
「そ、そういうわけじゃ・・・・・・。」
『なら、こうして電話しても、また来るつもりなのか?』
「それは・・・・・・。」
たとえ電話をしていたとしても、たぶん会いに行きたくなっていたと思う。今後もそう思うに決まっている。
だから、もう行かないつもりではいるけれど、はっきりと否定する自信は無い。
『あのなぁ・・・・・・。今日は俺が気付けたから良かったものの、もし他の奴だったらどうしてたんだ。』
あ、本当に説教も始まってしまった・・・・・・。
でも、たしかに私も考えが甘すぎた。
「そうだね・・・・・・。もしかしたら、私の所為で、氷帝全員が辞めさせられてたかもしれないもんね・・・・・・。」
『そこまでは言ってねぇが・・・・・・。』
「だって、合宿メンバーって、U-17の仲間でもあるけど、ライバルでもあるわけでしょ?」
ライバルを少しでも減らすため、私の行動を責めようとする人も少なくないと思う。
今更そんな考えに至り、反省するけれど、どうも日吉は納得していない様子だ。
『・・・・・・まあ、それでもいい。とにかく、もう来るなよ。』
「うん・・・・・・わかった・・・・・・。」
もちろん、わかってる。納得だってしてる。日吉の言うことが全面的に正しいとも思ってる。
でも、やっぱり寂しさを拭うことはできない。
そんな考えが全部出てたんだろう。日吉の呆れたようなため息が聞こえてきた。
『・・・・・・連絡はする。』
「え?」
『これからは、できる限り連絡する。』
「あ、ご、ごめん!いいよ、いいよ!練習の邪魔、したくないし!」
『合宿所まで邪魔しに来た奴がそれを言うのか?』
「ご、ごめんなさい・・・・・・。でも、邪魔しに行ったつもりじゃ・・・・・・。」
『冗談だ。』
電話越しに、日吉がフッと笑う。
『と話せた後、不思議と練習に集中できた。おそらく、普段のコンディションに近づけたんだろうな。』
「・・・・・・そうなの?」
『お前と話すことは、俺にとっての日常だからな。』
日吉は何気なく言ったけど・・・・・・日吉の傍に居ていいと認めてくれてるってことだよね?
それって、とんでもなく嬉しいことなんですけど・・・・・・!?
と思ったのも束の間。
『けど、今日はお前の心配とか、余計なことも考えさせられたけどな?』
日吉が私を責めるように、そして楽しそうに、そう言った。
あぁ、いつもの日吉だ。
私にとっても、こうして日吉と話すことが日常。だから、会えないのは寂しい。でも、こんなに大好きだからこそ、ちゃんと応援したい。
「うん、ごめんなさい。それと、ありがとう。」
『何だよ、それ。』
二人して笑い、それから少し他愛ない話をして、電話を切った。
・・・そういえば、こうして電話でいろいろ話すって、今までなかった。普段は毎日学校で会えるし。
これはこれでよかったかもね!
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日吉くん、お誕生日おめでとう!
今回は初の新テニネタです!「負け組」と言うと、日吉くんに悪いですが、「革命軍」&黒ジャージは日吉くんによく似合ってますよね♪
新テニネタは、なかなか慣れないですが、今のところ、もう1つネタがあるので、またチャレンジしてみます(笑)。
('16/12/05)